用語解説


量子力学
原子中の電子は、プランク定数 h で量子化された角運動量と離散的な値のエ ネルギー準位を持っていることが知られている。このような現象はニュートン の運動方程式に基づく古典力学では説明することが不可能であり、その記述に は本質的に量子力学が必要である。プランク定数 h は 後述の 不確定性関係に あらわれるパラメータであり、通常の古典力学は、不確定性関係が無視できる 状況での量子力学の近似理論となっている。素粒子物理のようなミクロなスケー ルの物理を記述するには、量子力学が重要な役割を果たす。
(特殊)相対論
真空中の光は、どの観測者から見ても一定の速さ(光速度) c で運動している。 また、素粒子の運動は光速度 c を超えることはできない。この事実は、ニュー トンの運動方程式の修正を意味し、ローレンツ変換に基づくアインシュタイン の特殊相対論が構築された。 さまざまな素粒子現象に現れる高エネルギー素粒子は光速度に極めて近い速さ で運動しており、その記述には特殊相対論が不可欠である。
不確定性関係
量子力学では、粒子の位置と運動量を同時に確定することは不可能であり、位 置の測定不定性と運動量の測定不定性との積には、プランク定数 h で与えら れる下限が存在する。このような関係を、ハイゼンベルグの不確定性関係と呼 ぶ。
相対論的な量子場の理論
素粒子の世界の法則を記述するための基本的な理論的枠組み。 特殊相対性理論量子力学 を融合している。「量子化された場」=「素粒子を表す力学的自由度」と同定する ことによって、場の相互作用によって素粒子間の相互作用を記述する。
ゲージ理論
ゲージ理論においては、時空の各点各点には、我々の目には見えない内部自由度が 付随しているとする。この内部自由度は、各点各点に張りついた内部座標系によって 表される。時空の異なる点に張りついている内部座標系どうしの関係を表すために 導入される場が、素粒子の間を媒介する「力の場」(=ゲージ場)である。
電磁相互作用
電荷・磁荷を持った粒子と、電場・磁場との相互作用のこと。我々の日常生活でも 馴染みのある相互作用である。素粒子の世界では、電荷を持った素粒子(電子など) と光子との相互作用によって記述される。
強い相互作用
陽子や中性子を構成するクォークとグルーオンの間の相互作用を表す。これら の粒子は、カラー電荷という特別な電荷を通じて相互作用している。 1 fm = 10 - 15 m より離れると、互いの間に非常に強い引力が働くため、カラー電荷をもったクォーク やグルーオンとしては取り出せない(クォークの閉じ込め)。カラー電荷が中性の組み 合せになった、陽子や中性子などの束縛状態としてのみ取り出せる。
弱い相互作用
原子核のβ崩壊などをつかさどる相互作用。素粒子の世界では、電子やニュートリノ、 クォークなどとW,Z粒子との相互作用によって記述される。この相互作用の到達距離 は10 - 17 m 程度と非常に短いので、それよりも長いスケールでは、相互作用が弱く なる。
重力相互作用
エネルギーを持った粒子の間に働く力。マクロなスケールではアイン シュタインの 一般相対性理論 によってよく理解されている。素粒子の世界では、すべて の粒子と重力子の相互作用として記述されると考えられるが、 量子重力 の理論には様々な困難があり、重力子も発見されてはいない。
標準模型
素粒子の世界の自然法則を記述する理論。1970年代に構築され、電磁相互作用・強い 相互作用・弱い相互作用を記述する。その予言は、現在までに行なわれたほとんど すべての素粒子実験によって、非常に良い精度で確かめられている。 ゲージ理論に基づく。
ゲージ対称性
ある変換の下で理論が不変なとき、その理論は対称性をもつと言う。時空の座 標の各点で共通の変換をする場合に制限したときの対称性を大局的対称性、座 標の各点で異る変換を許す場合の対称性をゲージ(局所的)対称性と呼ぶ。 ゲージ対称性を持つ場の理論( ゲージ理論 )は、その相互作用が対称性で規定さ れるなど極めてうつくしい構造を持つ。
対称性の自発的破れ
場の理論における基底状態は「真空」と呼ばれる。「真空」はその言葉から想 像されるようなからっぽの状態ではなく、極めて豊富な構造を持っている場合 が多い。特に、もともとの場の理論がある種の対称性を持っていても、「真空」 の構造によりその対称性が一見破れて見える場合がある。 この現象を対称性 の自発的破れと呼ぶ。
ヒッグス粒子
素粒子の 電磁相互作用弱い相互作用 は、まとめて電弱相互作用と呼ばれ、 素粒子標準模型 では ワインバーグ・サラム理論で記述されている。ワインバー グ・サラム理論は、 自発的に破れゲージ対称性 に基づく理論であり、現在知 られているほぼすべての実験事実を定量的に説明するなど著しい成功をおさめ ている。しかしながら、「どのようにしてゲージ対称性が自発的に破れている か?」との疑問には実験的な答えはいまだ与えられていない。ミニマルな(最小 の)可能性は、 2重項ヒッグスと呼ばれるスカラー場をひとつだけ理論に加え ることであり、この場合、ヒッグス粒子と呼ばれるスカラー粒子の存在が予言 される。しかしながらミニマルな標準模型には理論的な問題点も多く残されて おり、他の可能性が盛んに議論されている。
超対称理論
超対称性はボソンとフェルミオンという統計性の異なる粒子を入れ替える対称性。 超対称性を持つ理論を超対称理論と呼ぶ。 標準模型 を超対称にした超対称標準理論は、 標準模型の未解決の問題の一つである 弱い力重力 の階層性の問題を解決する 有力な解としてその存在が有望視されている。この理論においては、 スクォーク、フォテーノといった標準模型の粒子に対する超対称対の存在が 予言されており、それらの実験的探索が素粒子物理学の重要な課題になっている。
大統一理論
強い力電磁力弱い力 を統一的に扱う理論。 これら3つの力に関わる ゲージ対称性 が、大統一が起こる非常に高いエネルギー スケールで一つの単純群に統一される。 超対称統一理論を用いた解析では、 高いエネルギースケールで3つのゲージ結合定数が一致する。 この事実は、超対称大統一理論の存在を示唆しており、精力的に研究されてきている。
余剰次元
3次元の空間の他に広がった空間。通常は有限の広がり(サイズ)を持つと 考えられる。古くはKaluzaやKleinによって余剰次元理論が研究されてきた。 また 超弦理論 では時空が10次元のときのみ整合性のある理論ができるため、 必然的に余剰次元が現れる。最近、素粒子の 標準理論の未解決の問題を解決する ために、余剰次元を用いた模型が提唱され、注目されている。
加速器
電子、陽子などの粒子を加速し、高いエネルギーを持つ粒子のビームを作るための 装置。このビームを標的にぶつけたり、ビーム同士を衝突させたりしたときに 起こる現象を調べる。今日の素粒子物理の実験的探求において極めて重要である。
陽子崩壊
標準模型 にはバリオン数を保存するような相互作用しかないため、 最も軽いバリオンである陽子は崩壊せず安定である。しかし、 大統一理論 では大統一スケールの質量をもつ粒子が媒介して、陽子崩壊が極めて 長寿命ながら起こる。陽子崩壊の探索は大統一スケールといった極めて高い エネルギースケールの物理を調べるのに重要であり、様々な実験的努力が なされてきた。
ニュートリノの質量・混合
スーパーカミオカンデやカムランドを始めとする実験によって、 あるフレーバー(種類)のニュートリノが別のフレーバー(種類)の ニュートリノに変わる現象が明らかになった(ニュートリノ振動)。 これは、ニュートリノが小さな質量と異なる種類間の混合を持っている ことを示している。一方、理論的にはニュートリノ質量の存在は 標準模型を 超えた物理の存在を意味するが、このような小さな質量は、 大統一スケールに 関わる高いエネルギースケールの物理によって作られていると考えるのが 自然である。ニュートリノ質量の研究は理論的にも実験的にも重要であり、 注目されている。
非加速器実験
加速器 で作られた高エネルギーの粒子を用いない素粒子実験。加速器実験と 比べて、はるかに多量の物質を長時間観察することが可能である。そのため、 ごくまれにしか起こらない現象( 陽子崩壊 など)や、外界から飛んでくる 相互作用の極めて弱い粒子(ニュートリノなど)の探索・検出に用いられる。
一般相対論
アインシュタインにより提唱された 重力の理論。 重力により働く力と、加速によって生じる力が区別できない 事を原理としていて、空間に存在するエネルギーに比例して 空間が曲がることを予言している。 水星の公転周期のニュートンの 法則からのずれや、重力レンズの現象を説明する。
量子重力
量子論の原理に従うと、 一般相対論に現れる重力場 も、量子化されなければならない。結果として、 量子論と重力の理論が統一された理論、つまり量子重力が 得られると考える。そのような理論は未だ知られておらず、 超弦理論がその有力な理論として研究されている。
超弦理論
粒子のかわりに一次元的に広がった弦を基本的構成要素と考える理論。 「超」とは理論が 超対称性を持つことを意味する。 現在知られている4つの相互作用すべてを統一的に理解する 統一理論の有力候補と考えられている。
超重力理論
量子重力 の困難は、場の量子論の手法に従って量子化をすると 繰り込むことのできない発散があり、計算できなくなってしまうことにある。 このような発散は、ボゾンとフェルミオン間に 超対称性があれば少なくとも 部分的に解消する事が知られている。 一般相対論を このような超対称性を持つ理論に拡張した理論を超重力理論と呼ぶ。
ブレーン時空
超弦理論では、 10次元時空の中に4次元(より一般的には4次元とは限らない) の膜状に張ったブレーンと呼ばれる配位が存在し、クォークなどの物質や ゲージ力はブレーン上に閉じ込められている。 ブレーン世界とは、この ブレーン配位を用いた素粒子模型で、それによると物質と力がブレーン上に 閉じ込められ、一方時空の幾何学である重力は時空全体にあるという描像が成り立つ。
ゲージ理論と重力理論の双対性
5次元時空上の 重力理論(または弦理論)と、 5次元時空を囲む4次元時空上で 定義されたある種のゲージ理論が、 一つの理論の異なる見方にすぎない、とする 仮説。
非可換幾何
一般相対論によると 重力は時空の幾何学 を決めていて、その幾何はリーマン幾何とばれる。 量子重力超弦理論においては、古典的な幾何と異なる 量子力学的な時空の幾何が必要になると考えられている。 そのような幾何として注目されているのが非可換幾何である。
宇宙論
宇宙の歴史・発展を、第一原理に基づいて研究する学問。指導原理としては、 宇宙を満たす物質の性質を理解する上では素粒子物理学を、そしてそれらの物 質が宇宙膨脹に与える影響を議論するためには 一般相対性理論を用いる。
インフレーション
真空のエネルギーによる宇宙の急激な加速膨脹のこと。 ビッグバン宇宙模型の 持つ様々な問題を解決する機構として、有力視されている。最近の宇宙密度揺 らぎの精密測定は、宇宙初期にインフレーション時期が存在したことを強く示 唆している。
ビッグバン宇宙
現在の宇宙は、膨脹し続けていることが観測から明らかになっている。これは、 過去の宇宙は現在よりも高温・高密度であったことを意味している。このよう に、熱い宇宙(火の玉宇宙) から現在の宇宙が始まり、宇宙膨脹と共に冷えて 現在の宇宙になったとする考え方をビッグバン宇宙(模型)と呼ぶ。
相転移
水が氷に変るように、系の様相が大きく変ること。相転移に伴って、多くの場 合、系の持つ対称性が変化する。宇宙初期には、電弱対称性の破れに伴う相転 移や、強い相互作用によって引き起こされる相転移など、いくつかの相転移が 起きたと考えられている。
暗黒エネルギー
真空の持つエネルギー。ふつうの物質のエネルギー密度は宇宙膨脹と共に減少 するが、暗黒エネルギーの密度は宇宙が膨脹しても一定にとどまる。観測から、 暗黒エネルギーは現在の宇宙の全エネルギー密度の約70%を占めていること が明らかになっている。
暗黒物質
ほとんど光とは相互作用しない物質。現在の宇宙のエネルギー密度の約25% を占めていると考えられている。相互作用が極めて弱いため、暗黒物質を実験 で直接捕えることには、成功していない。このためその詳細な性質は謎のまま である。暗黒物質は、エネルギー密度が宇宙膨脹と共に減少するという点で、 暗黒エネルギーとは区別される。

last update: 2005/12/14
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