研究紹介




研究の概要

素粒子物理学は物質の究極の姿を対象とする分野です。 物質の最も基本的な構成要素である素粒子と、 自然現象を支配する最も基本的な物理法則としての素粒子間の相互作用を 明らかにすることを目的としています。

素粒子物理学の基礎となっているのは量子力学特殊相対性理論です。 素粒子物理学の対象は物質のミクロな構造ですが、短い距離を探ることは量子力学の不確定性関係により高いエネルギー領域に対応します。 このことは、素粒子物理が高エネルギー物理ともよばれる所以でもあります。素粒子を記述するのには 相対論的な場の量子論が用いられ、 その中でもゲージ理論と呼ばれるものが特に重要です。 現在知られている基本的相互作用である電磁相互作用、強い相互作用、弱い相互作用、重力相互作用の4つのうち、 重力以外の3つはゲージ理論で記述されます。さらに、ゲージ理論が弱い相互作用を正しく記述するためには ゲージ対称性の自発的破れという現象が起こっていなければなりません。 これを引き起こすヒッグス場の素励起であるヒッグス粒子は2012年に発見されました。 場の量子論に基づき3つの力と物質粒子を記述する理論は素粒子の標準模型(Standard Model)と 呼ばれ、その構築は20世紀後半の物理学における最も重要な達成の一つであると言ってもよいでしょう。

標準模型は豊かで美しい構造を持った理論ですがその形は極めてシンプルです。 これまでに標準模型が持つ様々な性質の実験的な検証が行われ、 ほとんどの実験データが高い精度で説明されることが確かめられてきました。 しかし、この理論には未解決の大きな謎がいくつか残されています。例えば、

といったものの解明は今後の課題です。

標準模型を超えた新たな素粒子現象を探索するため,新しい加速器の建設や既存の加速器の改良が行われており、 高エネルギー最前線、精密測定の両方向での実験が計画されています。 素粒子理論の発展のためには、高精度で物理現象を解析すること、 およびそれらを記述する場の量子論を深く掘り下げて理解することが不可欠です。 中でも強い相互作用を記述する量子色力学(QCD)を理解することが 標準模型の精密検証において重要となります。QCDは強結合の理論のため,一般にその解析は容易ではありません。 高エネルギーでは(クォークやグルーオンといった素粒子が自由粒子のようにふるまう) 漸近自由性という性質を持ち, 具体的な解析が可能となります。 一方で, 核子(陽子や中性子)のような低エネルギーではクォークが単独で存在できないというカラーの閉じ込め現象など, 純理論的にも興味深い性質を持つことが期待されます。 QCDをはじめとする場の量子論をより深く理解することが今後の素粒子物理学の発展のためには重要です。

素粒子は最もマクロな構造である宇宙とも深く関わっています。宇宙初期の高温の時期には 素粒子が宇宙論の主役を演ずるためです。 宇宙の誕生直後には、真空の大きなエネルギーによってインフレーション と呼ばれる急激な膨張が起こったと考えられています。 この宇宙の急激な膨張の後に真空のエネルギーが輻射として解放され、熱いビッグバン宇宙が始まり、 膨張による冷却といくつかの相転移を経て今日の宇宙へと進化してきました。 加速器実験では到達できない超高エネルギー, あるいは長時間かけてやっと相互作用するような弱結合領域の物理が, 宇宙の進化に重要な役割を果たすと考えられています。 したがって, 宇宙初期を研究するには素粒子物理学の知識が必要不可欠であり,逆に,初期宇宙の研究から 素粒子物理学に対して新たな知見が得られると期待されます。 こうした観点から素粒子物理学に立脚した初期宇宙の研究が、最近の宇宙背景放射、重力レンズ、 原初元素組成など宇宙観測の発展にも刺激されて活発に進められています。 とりわけ、現在の宇宙の組成の大部分は暗黒エネルギー暗黒物質によって占められていることが明らかになっていますが、 これらは素粒子の標準模型の枠内では説明できず、新たな理論が必要とされています。

標準模型に含まれていない重力はもっとも古くから知られた相互作用であり、 古典論としては一般相対性理論という美しい理論で記述されます。 しかし、量子力学的な重力(量子重力)の理論は未完成です。 量子重力を含む全ての相互作用を統一する理論の有力な候補として 超弦理論があります。 超弦理論は重力の量子である重力子の存在を必然的に予言します。 超弦理論には5つの異なる種類の理論が知られていましたが, これらがただ一つの理論の別々の側面を見ているだけで あることが双対性の発見によって明らかになりました。このことから超弦理論は過去のどんな物理理論とも違 い一切変更の余地のない理論であり、そのため基礎物理学の最終理論として期待されています。

統一理論としてのみならず、超弦理論は極めて豊富な数理的構造を持っており、場の量子論や数学、物理の 他分野などと影響を与え合い発展をしています。概念的にも、例えば反ドジッター(AdS)時空での量子重力理論と、 重力を含まない場の量子論の間にAdS/CFT対応と呼ばれる双対性があるなどの驚くべき発見をもたらしています。 そのように、超弦理論が場の量子論の数理的発展をもたらし、また場の量子論の発展もいまだ未完成である 超弦理論の様々な側面の理解を深めるのに欠かせません。あまりに豊富な構造を持つゆえまだその全貌がはっき りと分からず、理解を積み上げることが重要です。

当研究室では、これら素粒子理論および素粒子的宇宙論の研究を広範囲にわたって行っています。 以下に主なものを挙げます。

高エネルギー現象の理論の研究
稼働中および計画中の加速器実験における素粒子現象、および様々な精密測定における新現象の出現についての理論的研究を行っています。
初期宇宙の研究
素粒子理論に立脚した整合的宇宙論の構築とその観測的検証を主眼として、 インフレーション模型、物質反物質非対称性生成、暗黒物質模型、密度揺らぎの進化に関して研究を進めています。
超弦理論や場の量子論の研究
超弦理論や場の量子論が持つ数理的な構造を解明するための研究を進めています。

last update: 2023/12/12
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